実験経済学(Experimental Economics)の核心は、人間の意思決定や行動に関わる経済理論を、実験室やフィールド実験などの実証手法を用いて体系的に検証することにあります。具体的には、研究者が実験参加者の意思決定環境をコントロールし、インセンティブや情報構造を操作したうえで、意思決定や市場の仕組みがどのように機能するかを観察・分析します。これは伝統的な理論研究や観察データ(フィールドデータ)による研究と異なり、下記のような強みを持っています。
- 因果関係の識別
実験では、要因をコントロールしながら変数を操作するため、理論や仮説に対して厳密に因果関係を検証できます。 - 理論モデルの精緻化・検証
実際の人間の行動や市場のメカニズムが、理論モデル通りに動くのかを直接確かめることが可能です。観察データだけでは見えにくかった「行動バイアス」や「意思決定上の心理的要因」を含めて研究できるため、モデルの改良や新たな理論の構築につながります。 - 政策立案や制度設計への応用
実験を通じて、政策や制度の導入・変更がどのような効果を持つかを事前に予測したり、複数案を比較検証したりすることができます。実際の社会に応用する前にリスクを抑えながら検証できる点が大きな利点です。 - フィールド実験との融合
現実に近い設定でのフィールド実験も盛んに行われています。伝統的な実験室実験に加え、地域や組織などで実際の参加者を集めて制度変更の効果を検証するといったアプローチも実験経済学の重要な一部です。
このように、実験経済学は理論と実証の橋渡しとして、「人は理論的前提どおりに動くのか?」という根本的な問いに、実験による客観的証拠を用いて答える学問といえます。