行動経済学(Behavioral Economics)の核心は、人々が必ずしも合理的な意思決定をしないこと、そしてその非合理性がある程度「規則的」であることを明らかにし、そこから生じる経済的・社会的な影響を理解する点にあります。従来の主流経済学が想定してきた“完全に合理的な経済主体(ホモ・エコノミクス)”という仮定を見直し、心理学の知見を取り入れることで、実際の人間の行動や意思決定メカニズムをより正確に説明しようとするのが行動経済学の特徴です。
行動経済学の主要な考え方
- 限定された合理性(Bounded Rationality)
認知能力や情報収集力、時間などに限りがあるため、人は“最適解”よりも“満足できる解”を探す傾向があるという考え方。これにより、人間は必ずしも完璧に合理的な意思決定を行わないことが示唆されます。 - ヒューリスティックス(Heuristics)とバイアス(Bias)
人間は意思決定をする際、複雑な問題を解決するために単純化・近道(ヒューリスティックス)を使います。しかし、これがしばしばバイアス(認知の偏り)を生み、結果として非合理的な判断につながることがある、という考え方です。代表例として、アンカリング効果、保有効果、確証バイアスなどが挙げられます。 - プロスペクト理論(Prospect Theory)
ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーが提唱した、リスクや不確実性がある場面での意思決定を説明する理論です。従来の期待効用理論では説明しにくい“損失回避”や“参照点”など、人々が感じる心理的価値が意思決定に影響を及ぼす点を明確に示しました。 - ナッジ(Nudge)と行動設計
行動経済学の応用分野として、環境や選択肢の提示方法(選択アーキテクチャ)を工夫することにより、人々の意思決定を望ましい方向へ促す“ナッジ”という概念があります。強制するのではなく、さりげない“ひと押し”を与えることが特徴です。
まとめ
行動経済学の核心は、伝統的な経済学の合理的モデルだけでは捉えきれない「人間らしい」意思決定パターンを解明し、その知見を活かして社会や個人の意思決定をより良い方向に導くことにあります。心理学的アプローチを組み込むことで、実際の行動に即した政策立案、マーケティング戦略、企業経営など、多方面での応用が期待される学問領域です。