ケインズ経済学と古典派経済学の対立の核心

ケインズ経済学と古典派経済学の対立の核心は、「市場の自律的な調整能力」と「有効需要の不足に対する政策的介入の必要性」をめぐる考え方の違いにあります。もう少し具体的に言えば、以下のような点が対立の中心となっています。


1. 市場均衡と政府介入に関する考え方

  • 古典派経済学
    • 市場は価格メカニズムによって需給が自動的に調整され、恒常的な需要不足は生じない(セイの法則)。
    • 政府が需給調整に大きく関与する必要は基本的にない。長期的には経済は常に完全雇用均衡に近づくと考える。
  • ケインズ経済学
    • 価格や賃金の下方硬直性などの理由により、市場が自律的に調整されず、有効需要が不足したまま不況や失業が続くことがある。
    • 不況時には政府支出や金融政策などによる積極的な景気刺激策が必要と考える。

2. 短期と長期の視点

  • 古典派経済学
    • 経済分析の中心を長期におく。長期的には資源は完全雇用を実現すると考え、短期的な需要不足による失業はあまり重視しない。
  • ケインズ経済学
    • 短期的な不況や失業が経済全体に与える影響を重視する。長期均衡を待つよりも、短期の需要刺激策を講じることで失業や不況を是正すべきと考える。
    • 有名なケインズの言葉として「長期的には我々は皆死んでいる(In the long run we are all dead)」がよく引用される。

3. 貨幣・利子率・投資の役割

  • 古典派経済学
    • 貨幣は取引の媒介としての機能が中心であり、実物経済(生産・消費・投資)に直接影響しない「ヴェール」であるとする考え方が強い。
    • 利子率は主に貯蓄と投資を調整する価格として働き、バランスが保たれると考える。
  • ケインズ経済学
    • 貨幣や利子率の変動が投資需要に直接影響を与え、不況やインフレに大きく作用すると考える。
    • 需給ギャップが生じたとき、金融政策や財政政策が需要をコントロールする重要な手段となる。

4. 賃金や価格の下方硬直性

  • 古典派経済学
    • 賃金・価格は柔軟に変動するため、需給不均衡があってもいずれ調整されるという前提が強い。
  • ケインズ経済学
    • 賃金や価格には下方硬直性があるため、不況が起きても名目賃金や物価が十分に下がらず、失業や需要不足が解消されにくいと考える。
    • こうした市場の調整の“不完全さ”を重視する。

まとめ

ケインズ経済学と古典派経済学の最大の対立点は、市場が自動的に均衡へと向かうと考えるか、あるいは市場の不完全さゆえに有効需要を喚起するための政府の積極的介入が必要だと考えるかという違いに集約されます。

  • 古典派は「市場は自律的に均衡へ向かう」とし、政府の役割を小さく捉える。
  • ケインズは「市場は自律的に均衡へ向かわない局面があり、積極的な財政・金融政策が短期的に必要」とする。

この根本的な対立が、経済学の政策論争でも繰り返し議論の焦点となってきました。

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