新ケインジアンモデル(New Keynesian Model)の核心は、価格の粘着性(価格硬直性)や賃金の下方硬直性などの「名目面での硬直性(nominal rigidity)」を明示的に取り入れたうえで、ミクロ経済学的な基礎(microfoundation)に基づいて総需要と総供給の関係を分析し、金融政策が実体経済に影響を与え得ることを示す点にあります。以下に主なポイントをまとめます。
- 名目硬直性(Nominal Rigidity)
- 新ケインジアンモデルでは、価格や賃金が即座に調整されるわけではなく、ある程度「粘着性」をもってゆっくり動くと仮定します。具体的には「カルボ型価格設定(Calvo pricing)」などが代表例として取り上げられ、企業は一定の確率でしか価格を変更できないとされます。
- 価格が即座には変化しないため、需要ショックが実体経済に影響を与えやすくなり、金融政策の役割が大きくなると考えられます。
- 不完全競争(Imperfect Competition)の導入
- 古典派や新古典派の理論(RBCモデルなど)と大きく異なる点は、市場が完全競争ではなく「不完全競争的」であると想定することです。企業はある程度の価格決定力(価格支配力)を持ち、これが価格硬直性を引き起こす要因の一つとされます。
- ミクロ的基礎(Microfoundation)に基づく分析
- 新ケインジアンモデルは、企業や家計の最適化行動(費用最小化や効用最大化)を明示的に組み込みながら、総需要と総供給の相互作用をモデル化します。
- マクロ経済学の分析をミクロ的な視点から裏づけることで、モデルの一貫性や説明力を高める狙いがあります。
- 金融政策が有効であるという示唆
- 名目硬直性が存在すると、金融政策が総需要を変化させることで生産や雇用に実質的な影響を及ぼしやすくなります。中央銀行の金利操作(たとえばテイラー・ルールに基づいた政策)が重要な役割を果たすというのが新ケインジアンモデルの基本的な示唆です。
- ただし、ゼロ金利制約(ZLB)や流動性の罠などが生じると、金融政策の効果が制限される場合もある点が議論されます。
- 期待形成と合理的期待
- 新ケインジアンモデルは「合理的期待」をベースに分析されるのが通例で、経済主体(家計や企業)が将来の政策や景気状況をどのように見通しているかが現在の経済活動に影響を与えます。
- インフレ予想も重要であり、企業の価格設定や賃金交渉が将来の物価上昇率を織り込んで行われるため、中央銀行の金融政策に対する信認が重要となります。
まとめると、新ケインジアンモデルの核心は、「名目硬直性を伴う不完全競争市場」をミクロ的基礎の上で扱い、短期的には価格や賃金の調整が不完全なため、金融政策が総需要を変化させることを通じて実体経済に大きな影響を与え得るとする点にあります。これは、価格が即時調整される完全競争モデル(新古典派モデルなど)では説明が難しかった金融政策の有効性を、ミクロ基礎を組み込みつつ論じるフレームワークとして大きな役割を果たしています。